前回は「前編:理論編」として、論文を読みながらビットコインの P2P ネットワークの仕組みについて説明しました。後編となる今回は、論文を補足すべく、実際に発生した二つの事件を通じて、ネットワークについてさらに詳しく見ていきます。
ビットコインは生まれてこのかた無停止、とはよく聞く話です。
ホントかどうか確かめようと思ったら、「bitcoin explorer」で検索してみましょう。エクスプローラー (explorer) というサービスがいくつも見つかるはずです。
エクスプローラーを見ると、過去にどのブロックがいつ生成されたかが分かります ※1。ざっと眺めてみると、数分から二十分ぐらいの間隔で生成されているブロックが多いようです。サトシが定めた基準は平均十分でしたので、妥当な結果かと思います。
では、以下のブロックはどうでしょうか。
74638番のブロックは、前のブロックから約七時間後に生成されています。
225430番のブロックは、約一時間半かけて生成されたようです。
今回は、これら二つのブロックにまつわる二つの事件を通じて、ビットコインのネットワークに関する理解を深めていきましょう。これまでの連載を前提にしていますので、不明な点があれば特に前回の記事を参照してください。
一つ目の事件は、2010年8月に発生した「Value Overflow Incident」です。第2回で紹介した、「トランザクションを信じるな」というメールの事件です。以下では、これをオーバーフロー事件と呼ぶことにします。
もう一つは、サトシ不在の中で発生した「March 2013 Chain Fork」です。以下では、その顛末をまとめた文書「BIP 50」にちなんで、BIP50事件と呼ぶことにします。
まずはオーバーフロー事件について、発生前の状況を簡単に見てみましょう。
ビットコインのネットワークは、2009年1月に稼働を開始したと言われています。当初、参加者はサトシやハル・フィニーなどごく少数でしたが、事件までの約一年半で増えていき、事件の三か月前には、例の L氏によるピザのオファーがビットコインのフォーラムに投稿されています。